同位体の化学

同位体と科学をテーマに同位体の歴史をシリーズで連載をいたします。

第2回「同位体とは」

更新日:2009/11/05

第1回に述べたように、20世紀初頭、α線、β線を放出するウラン・トリウムの放射壊変が盛んに研究され、この過程で質量数が異なりながらも同じ元素とみなされる核種が見つかり、これに同位体という名前がつけられた。ウラン等の放射壊変で生まれる同位体は終着元素である鉛を除いて、放射線を発する放射性同位体である(または放射性同位元素とも言う)。

また一方物理分野では質量分析器が開発され、元素中に放射線を出さない安定同位体が発見された。同位体は安定同位体と放射性同位体に分けられる。同位体というと放射性同位体のイメージがあるので、ここではむしろ放射線を出さない安定同位体や、放射線を出すが半減期が長く、天然に存在する同位体について、幾つかの話題を取り上げる。

宇宙

1.原子量

元素の原子量は化学反応に係る物質量の比例性から決められていたが、各元素に含まれる同位体存在比が質量分析計で正確に求まると、精密な原子量が同位体の質量と存在比から定まった。同位体の存在が明らかとなると、次のような元素周期表にまつわる疑問も解決した。原子量が整数から大きく外れる場合があるが、これはなぜか。例えば塩素の原子量は35.5である。質量分析器による塩素の同位体分析から、この疑問は解決した。天然元素の塩素には、質量数35と37の二つの同位体35Clと37Clがあり、原子量はその混合比35Cl (75.8 %)と37Cl (24.2 %)による平均質量を示している。同位体記号は元素記号の左肩上に質量数を添え字で付加したものである。

また周期表では原子番号順に原子量も大きくなるが、この原則に外れるところがある。例えば原子番号18のアルゴンの原子量は39.95であるが、次の19番元素カリウムの原子量は39.10と小さくなる。この理由はアルゴン、カリウム共に幾つかの同位体から成り、主要な同位体がアルゴンの場合40Arであり、カリウムの場合39Kであることによるものであった。陽子が1個増えると原子番号が1だけ大きくなるが、通常は中性子数も増える。しかし最も安定な核となる中性子数が減少することもあることを示している。

2.同位体の安定性

原子核の安定性は核子(陽子と中性子)の数のバランスに関係しており、核子数が奇数のものよりも偶数の方が安定性は高い。天然にある安定同位体の中で、陽子、中性子共に偶数の安定同位体は165あり、陽子数が偶数、中性子数が奇数の安定同位体は55、またその逆の陽子数が奇数、中性子数が偶数の安定同位体も同じく55種類ある。陽子、中性子共に奇数の安定同位体は僅か4種類( 2H, 6Li, 10B,14N )のみである。

天然には陽子、中性子共に奇数の同位体、例えば40K, 50V, 138La, 176Lu, 180Ta等が存在するが、これらは安定同位体ではなく半減期の長い放射性同位体である。天然カリウム中に0.0117%存在する40K(陽子数19、中性子数21)はβ壊変核種であり、環境中に広く存在し、人体中にもある。人体では毎秒数千個のβ壊変があり、放射線が人間の体内で発生している。人間は誰しも体内にある40Kの放射線にさらされている。 原子核の構造が最も安定化する質量領域にスズ(Sn)があり、スズには10個の安定同位体が存在する。一方原子核を構成する陽子、中性子などの核子1個当たりの結合は鉄の質量領域で最も安定化する。

3.同位体の特性と応用

同位体の物理的、化学的特性として、次のような性質が挙げられる。

(1) 同位体は質量が異なるが同じ元素であるから、化学的性質はほとんど同じである。化学的性質が同じという原理から、例えば放射性同位体(RI)が元素の挙動を追跡するトレーサーとして使われる。最近は質量分析計の測定精度が高くなり、放射線を出さない安定同位体もトレーサーとして使われるようになった。

(2) しかし、同位体は質量が違うため、僅かに化学的反応の速度や平衡定数が変化する。これを同位体効果と呼ぶ。地球環境中の水や雪、炭酸カルシウムなどの物質間でも水素や酸素の同位体比が僅かに変動している。この変動が温度に依存することから、同位体比が環境の温度センサーとして利用される。また同位体の化学反応性の違いから、水素、炭素、窒素、酸素などの同位体分離・濃縮が行われている。

(3) 同位体の化学的性質は似ているが、中性子数が異なるため、中性子や他の原子核との核反応性などの物理的性質は大きく異なる。中性子との反応についてみると、天然ウランに含まれる同位体の中で中性子を吸収して核分裂する同位体は、僅か0.72%存在する235Uである。効率的な核分裂を起こさせるため、軽水炉型原子力発電所では235Uを3 ~4%に濃縮した低濃縮ウランを燃料として いる。

(4) 同位体の原子核は中性子数が異なるため、その核スピンが同位体によって異なる。陽子数と、中性子数共に偶数の同位体は核スピンが0であるが、陽子あるいは中性子数が奇数の同位体は0ではない核スピンを持つ。核スピンは有機化合物などの核磁気共鳴分析に応用され、水素化合物は1H, 炭素化合物は13C, 窒素化合物は15N, 酸素化合物は17Oを使 い、化学結合状態が分析される。

 

参考書:

1)「新版 放射化学の基礎」 コルネリウス・ケラー、岸川俊明、発行 現代工学社

2)「現代放射化学」 海老原充、 発行 化学同人

 

著者:国立大学法人
東京工業大学
名誉教授 藤井靖彦

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